スプーンとフォーク

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 「今日、西山さんのとこでね、あ、町内会の会計の」
 夕食後、コーヒー入れながら妻が話し始めた。妻はブラック。僕は角砂糖を二個入れる。
「水羊羹を出してくれたんだけどスプーンがついてなくて。西山さん『あ、スプーンあるかな?』って流しの引き出しをがちゃがちゃやって、小さなスプーンを出してくれたの。その時、変なこと言うのよ」
「どんな?」
「『残っててよかった。ほら、スプーンってフォークになっちゃうでしょ』って」
「え?」
「デザート用のが5本ずつ計10本あったんだけど、今はスプーンが2本でフォークが8本なんだって。私、『きっと旦那さんのいたずらよ』って笑ったんだけど、西山さん。『旦那が? なんで? それよかスプーンがフォークとぶつかって削れることのほうがずっとありそうじゃない?』って真顔で言うのよ。私、怖くなっちゃった」
「そっか」
 僕は、複雑な気分で、コーヒーをフォークでかき混ぜている。
ミステリー・推理
公開:19/07/23 18:28
更新:19/07/23 22:16

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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