供えるパール

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「真珠流しはここで行われるんです」
隣に立っている初老の男は、水平線を見つめながら言った。
俺はその真珠流しなるものが妙に気になり、少し無理を言って見せてもらえることになったのだ。
「いつからかは定かではないのですが、毎年この浜辺に人魚が打ち上がるようになったんです。私が生まれた頃には、すでに始まっていました」
人魚。
にわかには信じがたい話ではあったが、彼の顔は真剣そのものである。
「人魚が打ち上がるのが、私たち人間のせいなのか、海流のせいでそうなっているのか、それは分かりません。しかし、その人魚を供養するために、私たちは真珠を捧げているのです」
彼は真珠がいっぱいに詰まったジップロックを、海に向かって投げ込んだ。
俺たちは、ジップロックが波に揺られ、飲み込まれていくのを黙ってじっと見つめていた。
その他
公開:19/07/23 11:48
スクー ジップロック人魚

田坂惇一

ショートショートに魅入られて自分でも書いてみようと挑戦しています。
悪口でもちょっとした感想でも、コメントいただけると嬉しいです。

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