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「人魚の涙が、真珠になるんだって」
「えーじゃあ、今うちらが泣いたら、真珠採り放題じゃん!」
底抜けに明るい声が、聞こえた。
思わず泳いで行くと、人魚の尾ヒレのような水着を着た少女達が、貝殻型の浮輪にのって、夢中で写真を撮っている。

 また違った。
 昔は沢山の人魚がいて、悲しいことがあると真珠貝にそっと話かけ、そして思わずこぼれた涙を拾っては、貝殻にしまって大切に育てたのだ。
 それがほんの数百年眠って起きたら、人魚はどこにもいなくなり、代わりに足ヒレをもたない生き物が仲間の貝の口を強引に開けて、次々と真珠を奪っていくようになっていたのだ。
 貝は悲しみを振り払うように、再び泳ぎだした。
 やがて、月が美しい夜になった。貝は水面にあがり、月からの雫を貝殻で受け止めた。
 そして真珠貝は再び眠りにつく。
 今度は千年眠りますので、あの無礼な生き物がいなくなっていますようにと願いながら。
ファンタジー
公開:19/07/23 09:32

七下(ななさがり)

旧「はるぽこ」です。
読んでいただき、ありがとうございます。

400字制限の長さと短さの間で、いつも悶えています。
指摘もコメントも、いただけたらすべてを励みにします、大歓迎です。

【優秀賞】
渋谷コンテスト「夜更けのハイビスカス」

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