きょうはかめのみそしる

妻がネギを刻む音が聞こえる。俺たち夫婦には子どもがいない。俺と妻の二人だけで暮らしている。ゆえに、背中しか見えないが、キッチンに立つ女は妻だ。
「今日の味噌汁何？」
「きょうはかめのみそしるよ」
ワカメか。俺、ワカメが好きなんだよね。水を吸って増えるところが良い。まるで無限にも思える俺の思考のようだ。生のワカメは知らない。

「お夕飯にしましょう」
イスに座りながらテーブルに並べられた味噌汁を見て、俺は文句を言った。
「何だよ。ワカメじゃなくて、ツミレじゃないか」
「そうね。かめよ」
そう言いながら、既に席に着いていた妻は味噌汁をすすった。
「分かった」
妻に言われた通りに噛んだツミレは、思いのほか硬い。
「ツミレ、だよな……？」
お椀を覗くと、ツミレが得体の知れない何かに見えてくる。そんな気がした。
「もしもしかめよ、かめさんよ」
「え？」
「うさぎかもね」
妻はまた、味噌汁をすすった。