棲みつく傑作

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「これは面白い。傑作だ」
彼はある本を読み終わると、感嘆の声をあげた。
その傑作は、世間では高い評価を得てはいなかったが、なぜか彼に突き刺さった。
それから傑作は彼の心に棲みついた。
仕事をしている時も、風呂に入っている時も、食事の時も、彼は傑作のことだけを考えていた。
傑作に心を支配されていた。
別の本を読んでも、その傑作の出来には遠く及ばず、内容は頭から流れ出て行った。
まるで傑作がその作品を食べているようだった。
そんな彼の様子を気にかけて、両親は精神科に連れて行った。
しかし、心を巣食う傑作を、精神科がなんとかできるはずもなかった。
解決法はただ一つ。
新たな傑作を見つけることだけだ。
彼は今でも、更なる傑作を求めて本を読み漁っている。
その他
公開:19/07/21 13:53

田坂惇一

ショートショートに魅入られて自分でも書いてみようと挑戦しています。
悪口でもちょっとした感想でも、コメントいただけると嬉しいです。

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