ひと夏の臨終

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 本日は、あなた様に、お別れを告げにやって参りました。

 あなた様と、はじめて出会ったときのことは、今でも憶えております。

 あれは、一週間ほど前でしたね。
 わたくしは、はじめて野山に出たのでした。
 恥ずかしながら、わたくし、慣れていないものですから、木から転げ落ちてしまったのです。
 そこへ、やさしく助けてくださったのが、あなた様でした。

 それからは、硝子のように底の澄んだ、川へ泳ぎに行ったり、おじい様からいただいた、みずみずしい西瓜にむしゃぶりついたり。縁側で、風鈴のチリンチリンと鳴るのを聴きながら、夕陽で山の端が染まる様を、二人で眺めたりしましたね。

 本当に、たのしい時間でございました。
 わたくし、生涯忘れません。

 最期に。
 わたくしは、あなた様をお慕いできて、とてもしあわせでし……。

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公開:19/07/21 11:22
セミ 田舎

やぎ太郎( 牧場 )

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