思い出の木。

2
5

「これ思い出の木なんだ」中学の頃、友人のAの家を訪ねたとき、庭の1本の木を指差してAは言った。
「思い出の木?」
「そう、水や光合成だけじゃなくって『記憶』も養分なんだ」意味不明な俺をよそに、Aは先端に大きい葉がついたツタを手にとると、胸に当てた。風は無いのに木がザワめいた。
「頭当ててみ」持っていたツタを俺に差し出しだす。言われるまま、葉を頭に当てる。こっちを見て話す俺が頭に浮かんだ、A目線に違いない。妙な気分だった。
「なぜか若い間は見るなって、婆ちゃんは言うけどね」Aは言った。
その後Aの家に何度か足を運んだが、木は確実に大きくなっていった。

十年ほど経ち、街を離れて就職した俺の元にAの訃報が届く。
社会人になった後Aは上手くいかず、毎日嫌な記憶を木に与え、楽しい思い出を見続けた。

木は元気を無くし、腐り、やがて倒れてAを押し潰したのだった。
ファンタジー
公開:19/07/21 23:46

ソー7

思いついた突拍子もない事を、形に出来たら面白いだろうな。と思って登録しました。
なので、頻繁じゃないかもしれないし、方向性もバラバラな話ばかりだと思いますが、よろしくどうぞ。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容