白鷺の川

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 傘の下。聴こえてくるのは静かな雨音だけ。町の音や周囲の人の話し声と、私の心の中にあることとの区別はつかなくて、そして見えている世界が、ゆっくりとした紙芝居ででもあるかのような、そんな朝のバス停です。
 「嫌なもんだよ。つつましく子育てしてるアシナガバチの巣を駆除するなんて仕事はね。かわいそうだよ」
 そう話す青いポンチョのお年寄りの心がスッと入ってきます。小雨の中に佇む身体と、身体という部屋から窓越しに雨を眺めている気楽な私との狭間にある幾層ものカーテンが、しきりと揺れています。
 バスが来て、歩道側の席を占めた私が車窓の水滴をグイと拭うと、川の上をゆったりと白鷺が羽ばたいています。それは私が降りるまで、私の窓から見えていました。
 再び傘の下。交差点を行き交う様々な想い。
─いつか、あの白鷺の飛ぶ川を本当に見られたらいいな。
 私はそう思いながら、私を待つ人のところへ急いだのでした。
ファンタジー
公開:19/07/16 18:59
更新:19/09/08 09:12
宇祖田都子の話

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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