時をかける投手

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ある年の甲子園決勝戦。
真っ白なユニホームを着た投手Sは、何度も時を超えていた。
相手チームの投手は相当の実力で、毎回僅差で負けてしまうのだ。
その度に試合前に戻るためタイムリープを行う。
甲子園優勝投手という称号は、それほどの執念を生んだ。
しかし、88回目、遂にそのときは訪れた。
4−3。9回表。ツーアウト、ツーストライク、ワンボール。
Sがこの打者を抑えれば勝利となる。
Sは捕手の指示に従い、外角へと渾身の一球を投げた。
打者のスイングは見事だったが、バットは大きく空を切った。
その瞬間、Sはガッツポーズをし喜びをチームメイトと分かち合った。
勝利に相応しくない曇り空だけれど、それはしょうがないかな。
Sは冷静にそんなことを思ったりした。
後ろポケットからはハンカチが顔を覗かせていた。
その他
公開:19/07/16 10:35
更新:19/07/16 20:26

田坂惇一

ショートショートに魅入られて自分でも書いてみようと挑戦しています。
悪口でもちょっとした感想でも、コメントいただけると嬉しいです。

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