ヘブン

6
7

他界するなら茨城がお得ですよ。
私は葬儀会社の勧めで茨城空港から他界することにした。
平凡な死だった。
あれはサハ共和国の上空。ぐっすりと走馬燈を眺めていた私は、ひどい乱気流で目を覚ました。
機体は永久凍土の町に緊急着陸。
厳しい寒さは魂を結晶化して、曖昧な肉体に輪郭を与えてくれる。不思議と寒さは感じない。
私は不意にやり残したことに気がついて、雪と氷に覆われた町に出た。次第に強くなる吹雪の中で視界と方向感覚を奪われ、やがてジェット機の飛び立つ音が聞こえてくると、私は取り残された安らぎを覚えた。
人のいない凍土の町には、中世の城を思わせるロシア正教の教会があった。荘厳な礼拝堂の白壁に囲まれた中庭で、私は小便をした。
凍土は魔法のように溶けて、そこに芝生の緑が広がると、みるみる育つ様々な植物たちに私の身体は包まれていった。花を咲かせ実をつけて、私の心を吸い取った空は、やがて紺碧の海となった。
公開:19/07/18 15:10

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容