契約

月無き夜
ランプを灯し映る蝶
レム睡眠の花園に
誘う如く舞い揺らぎ
薔薇の螺を巻き上げる

我を呼び出したるは……どちらかな？

見回す限り血の海の中、異形の紳士は溜め息を吐く。
魔方陣を描き、儀式を行い、何故肝心な事が解らぬのか。と。
彼を呼び出す時に重要なのは、広い場所、とてもとても広い場所。
顕現の際に巻き込まれ、肉片にならぬ為の。

「御呼び立てして申し訳ありません」

この場にそぐわぬ幼い声に、異形の紳士が顔を上げる。
まだ年端もいかぬ男の子が分厚い壁の後ろから顔を覗かせた。

「僕が皆さんにお願いをして貴方を御呼びさせて頂きました」

その幼さに似つかわしくない丁寧な言葉遣い。

「君が我が仮初めの主殿かな」

「そうなります」

「願いの対価は君の魂なのだがね」

「はい。僕の紡ぐ呪詛に力を」

その碧い眼に焔を湛え、齢5つの子供は誓う。

「僕を悪魔と罵った祖国への呪詛を」