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彼は医者として、自分に治せない病気はないとそう思っていた。
しかし、この世には、脊髄小脳変性症、スモン、クローン病などの数え切れないほどの難病が存在する。
彼は自分の能力を高く評価しすぎていた。実際にその難病患者の治療にあたった際、彼は、自分の無力さを思い知らされた。
目の前で安らかに息を引き取る患者の命を助けることができなかったのである。
それからというもの、彼はすっかりとやる気を失ってしまった。
世界中の患者を一人でも多く助けたいから医者になったのに、現実は、ただの葬儀屋と同じく、遺族に自身の無念な気持ちを伝えるだけであった。
彼は、唇を噛みしめた。段々と口腔の中に滲んだ血がたまっていった。
もう外はすっかりと夜になれてしまったように、彼を静けさの中に取り残した。
その他
公開:19/07/17 23:05

神代博志( グスク )









 

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