合歓

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「お待たせしました」
語尾が震えたのを聞き留めてしまい、返しが遅れた。
「……はい。いえ、大丈夫です」
「よろしくお願いいたします」
布団についた指も震えていた。箱入りのお嬢さんが、無理もないと思った。ほとんど面識もない、自分の父親より年上の男に身を委ねる。内心どんなにか辛いだろう。

彼女は友人の娘だった。事業に失敗し、莫大な負債を抱えた友人に、『娘を頼む』と頭を下げられた。後見役の意味と取って引き受けた。友人が病を得、結婚話に発展し、撤回出来なくなった。
仕事漬けの人生で、異性と付き合った経験もない。荷が重いと思った。つまりお互い不本意だった。

「二番があったのですね」
シューベルトの『セレナーデ』。浴室の中、切れ切れに聞こえた歌。
「私は音楽に疎くて。お恥ずかしながら、初めて知りました」
お互い不本意で、知らない同士。取り繕っても仕方ないと思った。
怪訝そうな顔が、ふわりと寛いだ。
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公開:19/07/14 20:12
寝物語。初夜

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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