虻と蜂

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 金曜日の深夜、私はやっと仕事が終わり、家に帰る最中であった。気持ちよく電車の揺れに身をまかせ、恍惚の表情で夢の世界の入り口に立っていた。
 しかし駅に着くと、私の目線は夢の世界の入り口ではなく、電車の乗降口へと引っ張られた。本来ならば、夢の世界へと入らんとするところであったが、心ならずも現実世界に引き留められる並々ならぬ事情が私のいる車両に乗り込んできた。
「先輩、今日はご馳走してもらってホントにありがとうございました」
「いいよいいよ。その代わりまた来週からはバリバリ働いてもらうよヨ」
「はい!」
 赤い顔をしたサラリーマンの二人組は、酒を舐めた帰りだったのだろう。私とそう歳の離れていないであろう「先輩」はまさしく「先輩」を楽しんでいるようだった。
 その時、私の胸を満たしたのは嫌悪感であった。昔からそうだ。電車に乗り込む人々の中で、私が嫌悪感を抱く対象は決まって歳の近い者ばかりだ。
その他
公開:19/07/14 17:25
純文学

花脊タロ( 京都 )

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