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落雷で焼けた樹に、黒いドレスが腰掛けている。
拗けた断末魔の様な、虚空を掴む骸の間で脚を組み、レースの帽子の下、きっちり結った髪を、まだ足りぬとばかり、神経質に撫で付けている。
――ぷつ。
黒光りする鉤爪が、耳の脇から一本、長い髪を毟った。指で尺を取り、中程より少し低い位置で弾く。――ぷつん。幽き音が、しかしはっきり耳に届いた時、これは樹の死んだ音だと、即座に理解した。
フェイツ。運命の女神。生者の命数を紡ぎ、測り、断ち切る神。
見えていると知れたら、切られる。努めてゆっくり足を返す。死にたくない。死にたくない。死にたくない。六文字の洪水が頭を満たし、膝が笑う。駆け出したい衝動を、拳を握って堪える。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死に
頬を空気が掠め、どう――っ!!と、焦げた幹が踝の脇に倒れた。
走って走って走り続け、やがて胸が苦しくなった。
――ぷつん。
耳元に、響いた。
拗けた断末魔の様な、虚空を掴む骸の間で脚を組み、レースの帽子の下、きっちり結った髪を、まだ足りぬとばかり、神経質に撫で付けている。
――ぷつ。
黒光りする鉤爪が、耳の脇から一本、長い髪を毟った。指で尺を取り、中程より少し低い位置で弾く。――ぷつん。幽き音が、しかしはっきり耳に届いた時、これは樹の死んだ音だと、即座に理解した。
フェイツ。運命の女神。生者の命数を紡ぎ、測り、断ち切る神。
見えていると知れたら、切られる。努めてゆっくり足を返す。死にたくない。死にたくない。死にたくない。六文字の洪水が頭を満たし、膝が笑う。駆け出したい衝動を、拳を握って堪える。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死に
頬を空気が掠め、どう――っ!!と、焦げた幹が踝の脇に倒れた。
走って走って走り続け、やがて胸が苦しくなった。
――ぷつん。
耳元に、響いた。
ホラー
公開:19/07/15 23:41
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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