省略さん

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別れたいの。もう来ないで。あなたには感謝してる。
別れの言葉を練習をしていたら眠れなくなった。
気がつけば、梅雨の湿気で室内には水がたまり、私のいるベッドが水面に浮かんでいた。
どうにもならないときは、とりあえずぼんやりするのがいい。
扇風機の風が、私の二の腕にある、白くて薄い一本の毛を揺らす。
なんでも省略する彼だった。
テレビはテ。洗濯機はセ。おなかがへったも、おはようも、おで済ますだけ。もはや会話じゃない。
それでいて、納得できないことがあると、なんでなんでと、こどものように質問を続けるめんどくさい人。かつてはそれが面白かった。それが恋というもの。もう恋の魔法は消えた。
「や!」
台所から彼の声が聞こえる。
やり直せないかの「や」だ。冗談じゃない。
「わ!」
別れたくないの「わ」だ。
「もう出てって!」
彼は台所から、ピーマンの舟に乗ってやってくる。
また少し、体を省略したみたいだ。
公開:19/07/12 11:57

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