隣の部屋の不在配達票

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 三年ほど前からだろうか。月に二三回、隣の部屋の不在配達票が、うちの新聞受けに入っている。はじめのうちは、運送会社に連絡をした上で、隣の部屋の住人へ不在配達票を手渡ししようと思っていた。それは、不在配達票の宛名が女性名だったせいかもしれない。それを手渡した時、彼女に「それはお手数をおかけしてすいません」と言ってもらいたかったのだ。もちろん、彼女には何の責任もないし、番地の部屋番号にも間違いはないので、純粋に配達員のミスなのだったが。
 だが、いつチャイムを鳴らしても、彼女は留守だった。多分、居留守だと思うが、乱暴に扉を叩いてもよいほどの落ち度が彼女に無い以上、僕は彼女の意思を受け入れるしかなかった。今では、不在配達票がきたら、彼女の部屋の新聞受けに黙って入れ直している。
 品名はいつも「猫砂」だ。
 だが彼女の部屋から猫の気配はまるで感じられないし、ゴミ置き場でもゴミを一切見たことは無い。
ホラー
公開:19/07/13 11:03

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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