カフスの奇跡

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「田中様、本日は選ばれた方だけがご購入いただける、特別な品をご紹介に参りました」
日曜の午後。
相手の確認もせずドアを開けてしまった俺は、変な男に捕まってしまっていた。
家へ上がるなり男が取り出したのは、パンフレットとベロア調の箱。男は手のひらサイズの箱を開くと、俺の前へと差し出した。
「こちらのカフス、奇跡のダイヤをあしらっておりまして。お経をたっぷり聴かせたダイヤでしてね、奇跡が起きると評判なんです」
にんまり、と男が口角を上げる。
胡散臭い。そう思うのに、元来俺は断るのが苦手だった。
そうして契約は進められ、ついに判を押させられる、というとき、突然男が大声を上げ、持つものも持たず一目散に部屋を出ていった。
助かった……。
思いつつ息を吐くと、同時に後ろからため息が聞こえた。
「全く、あんたは本当に目が離せないんだから」
振り返ると、去年亡くなった母さんが、呆れた顔で仁王立ちしていた。
その他
公開:19/07/11 21:04
スクー お経ダイアモンド

ゆた

高野ユタというものでもあります。
幻想あたたか系、シュール系を書くのが好きです。

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