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夢だという確信はなかった。
中学生の頃に馬鹿にしていた男が住んでいるタワーマンションの上層階で、妻がその男に抱かれて泣いていた。男は私を見て頷き、妻を振りむかせて、その背中をそっと押した。
妻は五階の本屋から雑誌を一冊、間違って持ってきてしまったのだ。私は「返してくればいいよ」と言って駐車場へ向かったのだが、その雑誌を一緒に返しに行ってくれたのがその男だったらしい。
タワーマンションの35階から26階までの外階段は鉄製のベンチ型で、3メートル間隔でつり下げられていた。背もたれを繋いだ紐を引っ張ってベンチを手繰り寄せては、次のベンチへ移る仕組みだ。
妻は先に行ってしまった。私は死ぬ思いで階段を下り、気が付くと五階の本屋に戻っていた。
だが、息をつく間もなく建物が大きく揺れ始めた。
咄嗟にしゃがんで、耳をそばだてていると、
「これ本当じゃない?」
という妻か誰かの声が聞こえた。
中学生の頃に馬鹿にしていた男が住んでいるタワーマンションの上層階で、妻がその男に抱かれて泣いていた。男は私を見て頷き、妻を振りむかせて、その背中をそっと押した。
妻は五階の本屋から雑誌を一冊、間違って持ってきてしまったのだ。私は「返してくればいいよ」と言って駐車場へ向かったのだが、その雑誌を一緒に返しに行ってくれたのがその男だったらしい。
タワーマンションの35階から26階までの外階段は鉄製のベンチ型で、3メートル間隔でつり下げられていた。背もたれを繋いだ紐を引っ張ってベンチを手繰り寄せては、次のベンチへ移る仕組みだ。
妻は先に行ってしまった。私は死ぬ思いで階段を下り、気が付くと五階の本屋に戻っていた。
だが、息をつく間もなく建物が大きく揺れ始めた。
咄嗟にしゃがんで、耳をそばだてていると、
「これ本当じゃない?」
という妻か誰かの声が聞こえた。
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公開:19/07/11 09:02
星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。
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