ブックカバー・キャット

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 今、紙の本は大変高価だ。
 安くて数十万、高いものだと数千万は軽く超える。もはや本は本屋ではなく、専門の店を通してでないと手に入らない。そして店では、購入してくれた客への最高のおもてなしとして「猫のブックカバー」を付けてくれる。
 このブックカバーは読書に疲れた際、本から外すとたちまち生きた猫へと化ける。変化の時間等、厳しい規則はあるが、本物の猫が絶滅したこの世界では格別の宝物だ。
 私は懸命に金を貯め、ついに念願の猫、いや本を「キジ白専門店」から手に入れた。
 本は、亡き母が子供の頃に読んでくれた絵本だ。めくるたび、カバーを外すたび、私は堪らない幸福に包まれた。だいぶ歳をとり、ひょんなことから恋にも落ちた。今の妻だ。
 ある日。読書後の昼寝から目覚めると、私のキジ白と一緒に綺麗な三毛猫が寝ていた。
 不覚にも私はこの時初めて、妻もブックカバー・キャットを愛用していることを知った。
ファンタジー
公開:19/07/09 20:52
更新:19/07/09 22:22
猫ショートショートコンテスト

二森ちる( 瞑想と妄想の森で )

二森(ふたもり)ちると申します。
人生の節目に、二つ目の名前をつくりました。童話や小説などはこの名で執筆しています。
怪談やホラー系は「鬼頭(きとう)ちる」名義で活動しています。
どうぞよろしく。

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