霧の毛並み

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天鵞絨を張った様な、濃い霧に包まれていた。
部屋で転寝したのだろう事は予想が付く。私にとって、夢は現実と寸分違わぬものだ。例えば今、吸い込む空気の喉を湿す味。裸足に踏んだ苔と樹の根から滲み出す水が、五指の間を悴ませる痛み。落下する露と緩く対流する滴が、髪や服や肌の表面を戯れる感覚。起きてある時と同様に、時に以上に、私に訴えるそれらを、特段奇異に思ったり、快不快で断ずる事は、随分昔にやめてしまった。ただ、そういうものと受け取るに過ぎない。

――する。膝の辺りを擦り抜ける霧は、温かい。
掬おうと手を伸ばせば、逃げる。目を瞑って好きにさせておくと――すり。腕へ収まる程の固まりが掌を滑り、ふわ。と長いものが鼻を撫でて過ぎた。

クシャン!
私は元の部屋でテーブルに突っ伏し、崩れた脚の先が、窓硝子に接して冷え切っていた。
膝に掛かったカーテンの、白いレースの梢を揺り籠に、飼い猫が寝息を立てていた。
ファンタジー
公開:19/07/09 20:47

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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