塀の上で

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おいしさの秘密は「ひとがら」だという。
それは店主の人柄なのか、人骨の沁みだしなのか、僕は怖くて聞けなかった。
舐めたスープはおいしかったけど、僕は人アレルギーだ。人骨だったらどうしよう。
この夏、地球は水没した。
僕は残された塀の上を歩く。
満たされた地球スープ。どこまでも続く湾曲した塀は、巨大なうつわのふちを歩いている気分にさせた。
地球が水没するまでは、僕は人が怖くて、車やビルの狭間に暮らしていた。人が残した食べ物を、夜な夜なさがして生きていた。
春にうまれて、夏には縄張り争いに巻き込まれた。怪我しみる秋。極寒の冬。恋のない春。
幼い頃、人から理不尽な扱いをうけたことがある。そんな人ばかりじゃないけど、人はやっぱり怖い。
幾度目かの夏がきて、僕は変わり果てた地球でスープのほとりを歩く。
塀の上で釣り糸を垂らす店主は寂しげで、今日のスープはちょっぴり苦い。
「ねえ。そばにいていい?」
公開:19/07/10 11:20

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