天明の大飢饉

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時は、天明の大飢饉。
関東地方を襲った大洪水や大地震により、男は飢えに陥った。

「梅雨だというのに、空から一滴の雨も降ってきやしない。それに、転がる死体の山に群がるのは、悪の番人である鴉達ではなく、飢えた人間共」

男は、哀れな目で人間が自らの化身を貪る姿を眺めていた。
しかし、いつのまにか、男の目には涙一つ浮かばなかった・・・

「このご時世を生きるためには、滑稽な自尊心は捨て、天からの思し召しだと思って、それを貪るのが世の常ってことだよな」

男は、したたる涎を古びた服の袖で拭った。

「生きるっていうのは、つらいな。でも、生きているのもつらいんだ」

そう言うと、男は醜い顔をした奴らの群れに交ざり、人肉を貪った。
骨の随までしゃぶり尽くすその男の姿は、まるで、この世の終わりを楽しんでいるかのようであった。
その他
公開:19/07/08 22:24

神代博志( グスク )









 

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