うで猫

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祖母はいつも猫を抱いていた。陽だまり色の体に茶色の縞が波打つ猫だった。名前はチャトラ。

秋。祖母が入院した。
ベッドに腰掛ける姿は、想像以上に淋しかった。
「そっか。チャトラが居ないんだね」
空っぽの腕の中を見て呟くと、実はね、と祖母は笑った。
「居るのよ。ここに」
長袖をまくる。現れた両腕は、柔らかな毛並みを生やしていた。茶縞模様の陽だまり色。
「留守番と言ったら、ここに溶けちまってね」
唖然とする僕を、祖母は見つめた。
「渉、この子を任せて良いかい」
「…うん」
祖母は笑みを深めて、腕の毛並みを優しく撫でた。ほらチャトラ。
「お別れだ。渉んとこ行きな」
にああん。
か細い鳴き声が響いた瞬間、祖母の腕は骨ばった雪肌に戻っていた。そして、僕の両腕はチャトラの毛に覆われていた。

春。祖母に花を供える時、腕がごろごろ鳴いた。また来よう、と撫でてやると、にゃあん。
一際高く、甘え声が響いた。
ファンタジー
公開:19/07/09 09:23

rantan

読んでくださる方の心の隅に
すこしでも灯れたら幸せです。
よろしくお願いいたします(*´ー`*)

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