雪の肉球 (テルピカ町は猫びより⑭)

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母から「もうそろそろかも」という連絡がきた。年末は仕事が立て込んでおり、正月まで帰省は無理そうだ。年を越せるだろうか。
私はスマホの待受にしている猫の写真を指でなぞった。私が小学生の頃、家にやって来た真っ白な猫。
この子も今年で16歳。人間でいうと80歳となるお婆ちゃん猫だ。
私が家を出て、ここ数年はほとんど会えていない。近頃では散歩に出掛ける事もなく、母の足元でずっと寝ているらしい。
そんな我が家の猫は、少し変わっている。肉球が雪の結晶を思わせる形をしているのだ。私は「雪の肉球」と名付けた肉球に、鼻を付けるのが好きだった。もう一度……。

翌日の夜。仕事を終え、帰宅途中の私の鼻先にポツリと何かが当たった。大粒の雪だ。
空を見上げる。澄んだ空に雪の結晶が煌めいていた。
「あぁ……」
私は手のひらの上に雪の結晶をのせ、鼻を付けた。
雪の結晶は「ありがとう」の想いが溢れる涙に、しゅっと溶けた。
ファンタジー
公開:19/07/07 16:16
更新:19/07/07 15:55
テルピカ町は猫びより

壬生乃サル

まったり。

2022年…3本
2021年…12本
2020年…63本
2019年…219本
2018年…320本 (5/13~)

壬生乃サル(MiBU NO SARU)
Twitter(@saru_of_32)

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