ナツのはじまり

それは夏の嵐の日だった。

「ママ！なんかおかしい！」

我が家の猫、メグは四匹の子供を産んだ。
生まれた子供達を舌で優しく舐めるメグだったが、一匹だけ動かなかった。

「ねえ、大丈夫なの？」
美優は自分の手の平ほどの小さい猫をタオルで温めている。
台風で病院には行けないから、大丈夫ではない。
私は首を振った。すると美優は外に飛び出し、目に涙を溜めて空に叫んだ。
「風やんでよ！」
しかし風が止むことはなかった。
私は美優を優しく抱きしめた。

突然、私達の前にスーツを着た猫が立っていた。

ごめんなさい、台風で遅れちゃって。今から入れますね。

その猫は持っていた白い大きな袋から猫の顔がついた綿毛を一つ取り出し、にゃりっと美優の手元に吹きかけた。美優の手の中のタオルが少し動いた。

未だにあれは夢だと思っている。
しかし私の膝にナツが乗る度に、あのスーツ姿の猫を思い出すのだ。