「ねずみ小僧」

　江戸の町に、盗賊が現れた！
　どんな狭いすき間にも、するりと忍び込む。世間では「ねずみ小僧」と呼ばれていた。
　幕府は、役人を使って、どうにかねずみ小僧を捕まえようと必死だったが、いまだに捕らえることはできなかった。
　
「はぁ……」
　今日も今日とて、ねずみ小僧の探索に、足が棒になってしまったおれは、玄関にへたり込んだ。貧乏役人は、これだから辛い。大して給金ももらえないのに、地味で大変な仕事ばかりしなくちゃならない。
　そんなところへ、飼い猫のクロが寄ってきた。
「そうかそうか、なぐさめてくれるのか」
　クロがみゃあ、みゃあと鳴くので、その背中をなでてやる。
「お前が猫なら、ねずみ小僧をとっ掴まえてくれたらいいのに」
　そんなことを言ってそのまま、おれは畳につっぷした。
　
　ところが、おれは疲れていて、気がつかなかったのだ。
　クロが、山吹色の小判を、くわえてきたことに……。