公職選挙法第225条違反

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 満員の通勤電車で右足裏がチクリとした。会社近くのコンビニのトイレで確認すると画鋲だった。
 「いつ入った?」
 靴は昨日も履いていたし、外で靴を脱ぐ機会は少ない。
「家族が…? まさか」
 玄関の壁の画鋲が落ちたのだろう、と自分を納得させた。
 だが画鋲一個を持ち歩くのは、案外厄介だ。俺はトイレの壁に画鋲を刺した。
 翌日。やはり電車の中でチクリとした。駅のトイレで確認した。画鋲だ。昨夜、玄関に画鋲が無いことは確認済だ。
「満員電車で画鋲を? それは『家族犯人説』より蓋然性が高いのか?」
 その夜は靴を書斎に持ち込み、翌朝、画鋲が入っていないことを確認して靴を履いた。だが、駅を出た直後にチクリときた。
 俺は泣きそうになっていた。
 人の流れを無視してその場にしゃがんで靴を脱ぎ、画鋲を取り出した。そして路肩にあったポスターの目に思いきり刺した。
 これは公職選挙法第225条違反だそうだ。
その他
公開:19/07/06 12:13

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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