餅つき月を突き笑う

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 満月の夜、天窓を開ける。さして物を置いていないこざっぱりとしたフローリングの部屋に、白い月光が差し込んで、暗い室内を照らす。するとスポットライトの様なその光の下に、一羽の兎が姿を現した。
「おや、またご所望ですか」
 愛くるしい声で兎は小首を傾げて言った。僕は答える。
「ええ。どうも、病みつきになってしまったようですので」
「月だけに」
「月だけに」
 くだらない話をして笑い、僕は兎から餅を受け取った。彼らの土地である月の石を肥料に使って作られた餅米は絶品で、もうこの味が忘れられなくなってしまったのだ。特に、今日の様な冷える夜は。
「それではまた、来月の満月に」
「月曜日でしたね」
「ええ。月だけに」
 天窓を閉めてブラインドで月光を隠すと、兎は、まるで初めからそこに存在してなどいなかったかの様に、闇の中にスッと消えてしまった。
 さて。
 また、あと一ヶ月、保たせなくては。
ファンタジー
公開:19/07/04 23:04
ウサギ 不思議 幻想

宇津木健太郎( 我楽多街 )

優しい世界の話。
遥かなる宇宙の話。
夏の陽だまりの中の話。
世界を覆い尽くす青空の話。
あなたの隣に居る私の話。

そんな、日常から宇宙の果てまで存在する、不思議で空想的な話を紡いでいきます。

時々ホラーも書くかも知れないけれど。

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