一度だけ蘇った猫

「仕方ないのう。今回だけじゃぞ」
神様はそう言うと、目の前の雄猫に二度目の命を授けた。

彼が死んだのは一ヶ月前。
飼い主に見守られながら静かに逝った。
病死だった。
彼が一番悲しかったのは、飼い主と別れてしまうことだった。
死ぬと意識してからは、それだけを考えていた。
死の寸前に見た、飼い主の悲しそうな顔が脳裏に焼き付いている。
しかし、その気持ちが神様に通じ、もう一度生を受けた。

彼は気づくと飼い主の後ろに立っていた。
鳴き声が十分に届く距離である。
「もう一度共に過ごせるんだ」
そう思いながら前足を踏み出そうとするのだが、あることに気がついてしまうのだった。
踏み出しかけた足を引っ込める。
そして、彼はゆっくりと逆方向へ歩き始めた。