胡瓜に乗って遥々と

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 パカポコ、パカポコ。冬の夜、ロンドンの街を歩いていたら、こんな足音が聞えてきた。馬車?しかし、こんな時間に?
 首を傾げていると、目の前に黒い大きな影がぬうんと立った。馬にしては変だ。妙に細長い。何だ、と首を傾げているうちに、それは、胡瓜にマッチ棒をさして作った作り物の馬と気づいた。その上には、なんと甲冑に身を包んだ武者がいるではないか。大きな角飾りが霧の中で天をさして伸びている。
「日の本の者か?」
 頷くと、懐かしい、と低く笑った。
「我もかつて、武士として日の本を駆けた。関ヶ原で身は朽ちたが、子孫は残った。彼らは、盆にあって、我の分もこうして馬を用意してくれた。…だが」
 と、困ったように頭を振る。
「ここは似たような家ばかり、表札に頼ろうとも、あの面妖な文様があるばかり。はあ、馬ももうすぐ朽ちる。帰りの牛も確保できなければ…もはやこのわけわからん国で野良幽霊になるしかないのかの」
ホラー
公開:19/03/31 17:35
ロンドン 幽霊 戦国武者 武将

ヴェルデ( 東京 )

現在、歴史や美術についてのコラムを書くライターとして活動中。
夢は、アート小説を書くこと

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