時間の皿

6
6

 健一は近ごろ、夢想にふけりがちだ。
 誰しもが一度は考えたことがあるであろう「あの頃に戻れたら」という夢想を、たびたび考えてしまうクセがついてしまっていた。
「やっぱりあの頃が一番楽しかったなあ」
 健一は、通学路でふと呟いた。
——戻ってみるかい?
「え?」
 健一は足を止めて辺りを見回した。しかし自分以外には誰もいない。
 なあんだ。空耳か。健一は、ついに自分の欲望が幻聴となって聞こえてきたのだと、危機感を覚えながらも胸を撫で下ろした。
 また歩みを進め始めると、
——本当に望むなら、声に出して。あの頃に戻してあげるよ。
 今度は確信した。やはり誰かが健一に語りかけている。戻れるなら、本当に戻れるなら……
「戻りたい!」
 次の瞬間、健一がいたのは「あの頃」の世界だった。
 大いに喜んだ健一に、声は言った。

——よかったね。でも気をつけて。人は過去無くして存在しないんだよ。
その他
公開:19/03/31 11:49

花脊タロ( 京都 )

純文学系の作品を読むのが好きなので書く方も純文学よりのものが多くなります。

ご感想頂けると大変嬉しいです。

Twitterも是非フォローしてください。
ホームページには自身の全作品をまとめて掲載しています。
Twitter→http://twitter.com/hnctaro
ホームページ→http://hnctaro.wordpress.com

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容