満月の森

ああ今宵は満月だなぁ…
森の温泉に浸かっておったら、どこぞの小僧が柴刈に行くところが見えた。
「おい小僧よ『満月は命を吸う』て言うじゃろ。ありゃ月が悪いって、わけじゃねえ。月の光でこっちが良うけ見えるってことは、あっちも良うけ見えるってことだあ。だからあんさん、気をつけないと追い剥ぎに出くわすってえ話よ。柴刈はあぶねぇ帰れよ」
「あんちゃん優しいなぁ、でもここは満月の森だ。満月は海も変わるだろ。森も変わるのさ」
そう言うたら小僧に手をぎゅうと握られ湯から出され手を握って走った…小僧の足が三本になり四本に…あちきを獲物のように口に咥えて走る…疾風で前が見えぬ…目を凝らして見るとそこに温泉はなく…窪地だ…死んだ人がなぁ入ってたんだ…おびただしく
野っ原に出て降ろされた。
小僧は狼だった。

…夢か？
髷を触ったら埃が舞うた。
こりゃ森に食われかけたのを、この大神(オオカミ)が救うてくれたんか…