極光を掴む

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「手乗りオーロラ?」
「うん。今度の土産」
2年ぶりに帰国した弟が、無造作にぽいと放ったのは、現地の新聞に包んだボール紙の小箱だった。
「……偽物じゃねぇか」
「夢があって良いだろ」
水族館に売ってそうなペンスタンド。透明なガラスの水球に、貝殻と虹色フィルムが泳ぐ。蛍光灯に透かすと、青、緑、紫。掌できらきら色が遊んだ。
弟の白夜(びゃくや)はカメラマンだ。部屋中を写真で埋め尽くしただけで飽きたらず、本物を追い掛け、くそ寒い北極圏にへばり付いてる。
「夢じゃ飯は食えねぇぞ」
「飯じゃ夢は見れねぇよ」
年賀状代わりのエアメールは、スヴァルバールの青だった。『極夜(きょくや)兄の季節に』なんて、歯の浮く様な事を平気で書く。そういう所が昔から嫌いだった。

なのに俺は今、極夜の空にシャッターを切る。
俺の嫌いなあいつが、最後に見た光を掴む為。白夜が沈んだ海氷の真上、巨大な虹のカーテンが揺れている。
青春
公開:19/03/30 21:59
更新:19/03/30 22:06
極夜:太陽の昇らない日 北極圏の冬に見られる現象です。

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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