春に溺れる君がみたい

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「春がきたっていつわかるのかしら」
「唐突だね、まぁ君はいつでもそうか。僕は…そうだな、ほんのり温かい日差しの中、ピンク色の花びらが風に舞い始めると…かな」
平日の真昼間、河原に浮かぶ花弁を眺めながら浴びる光は、時間なんて置き去りにしてくれる。
「やっぱり桜かしらねぇ。あーあ、こうも暖かいと仕事しようだなんて気になりゃしないわ」
彼女の手にある薄い板には、真っ白なページが1枚。
「なるほど、暖かい陽気に誘われて仕事場から抜け出してきたってところかい?」
「…美しい文章が書きたいの。あんな狭い場所じゃ息が詰まって仕方ないわ」
思わず抱きしめたくなるほどに彼女の横顔は寂しげで、それでも伸ばせやしない手が悔しくて身を震わせる。

「綺麗…そんなに風も強く無いのに、今日は桜がよく舞うわ」
(どうせなら、僕の花弁に溺れてくれたら良いのにね)
聞こえやしない戯言は、今日も花弁となって彼女に降り注いだ。
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公開:19/04/01 19:23
更新:19/05/15 18:14

mono

思いつくまま、気の向くまま。
自分の頭の中から文字がこぼれ落ちてしまわないように、キーボードを叩いて整理整頓するのです。

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