泪に溺れる金魚

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あかい、あかい、ゆらゆらゆら

真夏の光が好き通り、赤い影が水槽に揺らめく。
まぁるい水槽の中を、くるくるゆらゆらひらひらすいすいひゅーいひゅるり。
限られた世界を自由気ままに泳ぐ姿はキラキラと眩しい。
「綺麗だね」
(そうかしら)
「君には夏がよく似合う」
(関係ないわ)
「泳ぐ姿が優美だ」
(そのようね)
一方的な会話でも、それなりに満足しているらしい。縁側でのたまう戯言はこの家に来てからの日課ともいえた。

「ねぇ、君は自由で羨ましいね」
ぽつりとこぼれた言葉は、微かな音となり空に溶けていく。
(貴方はとても窮屈そうね)

ガラス越しに見えた世界は、どうしてかときどき、吐き出したくなるほど水を塩っぽくさせた。
(貴方から見た私は、なんて自由で美しく、世界から祝福されたように見えるのかしら)
コポリと溢れた言葉は泡となり、波一つ立てず水に消えた。

なんてことない、ありふれた夏の一日
ファンタジー
公開:19/03/29 10:50

mono

思いつくまま、気の向くまま。
自分の頭の中から文字がこぼれ落ちてしまわないように、キーボードを叩いて整理整頓するのです。

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