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私は、大事な時計を落とさないように、深い森の中を駆けていた。
同じ背丈くらいの小枝にぶつかっては、身体のあちこちを引っかかれたが、気にしてはいられなかった。

もしも、深い森の中で、零時をむかえてしまうと、ずっと、深い森に閉じ込められてしまうからである。

私は、時計の針を時折気にしながら、無我夢中で走っていた。
地面からはえている色彩豊かな千年花は、私をこれから先ずっと歓迎しているかのように不気味に微笑んでいた。

私は、零時になる十分前に、森の端に到着した。
あとは、深い森のこの扉を開いて、現世に戻るだけである。

私は、扉を押した。
しかし、扉はぴくりとも動かなかった。

「どうして?どうしてなの?」
私は、その場で地団駄を踏んだ。

深い森の魔の手は、とうとう、私の影を捕まえた。そして、私の手に上にある時計の針を千年先の時刻に設定した。
その他
公開:19/03/30 22:00

神代博志( グスク )









 

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