トイレの窓

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 夕方に帰宅してトイレに入ると、右手の壁に小さな窓ができていた。白い木枠の引き違い窓で、両手で隠れるほどのサイズだ。夕空の草原をフラミンゴやインパラなどが横切る。かすかに開いた窓から、草木の香りの風が吹き込んだ。
 トイレを出て妻に尋ねると「リースの芳香剤」だという。注文に応じて毎月「香りのカプセル」が届き、そこに組み込まれているminiSD内の映像データを窓枠が読み取って、現実の時間に沿った映像をも映し出すのだそうだ。香りの強さ調整は窓の開き加減で行う。映像が荒いことを除けば、それはもうほとんど窓そのものなのだった。
 窓は豊富な種類の中から選べ、映像解像度のもっと高いものもあるという。「3D映像とか、ライブ映像コースもある」のだけれど「流石に高い」のだそうだ。
「来月はバリ島よ」と妻はニコニコしている。僕はその値段を聞いて、とりあえずトイレの洋式水洗化が先決ではないかなぁと思っている…
SF
公開:19/03/30 18:17
更新:19/03/31 00:39
トイレの日めくりのトイレ

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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