きちさん

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「きちさ~ん、手伝って」
「はい」
条件反射で返事する癖が付いている。
転職先の、七つ八つ若い上司。基本フランクと言うか、物怖じしないと言うか。変に気を遣われても働きにくいが、一週間で渾名呼びとは。
苗字が『吉祥寺』だから、想定内の呼称ではある。しかしこの男の場合、本当に含みがないのか疑わしい。
報連相=『菜っ葉』資料=『エサ』ミーティング=『肉』とか変換する罰当たり。渾名の選択にしても、『なむ(弥陀ヶ原)』『笑点(王城)』『ブリ(五木)』等々、先輩方の心の広さが、返って恐ろしい程の傍若無人だ。

毎度の事だが、ある日、仕事が押して急な延長勤務。
「お先に帰って済みません」
社交辞令で挨拶したら、良い笑顔でほざいてくれた。
「きちさんって、やっぱりどMだね~」
……そんな事だろうと思った。
吉凶の吉じゃなく、『気違い』のきち。
知らぬが仏。または、仏の顔も三度まで。
次は憶えてろよ、若造。
ミステリー・推理
公開:19/03/29 21:31

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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