その場しのぎ

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私は、見覚えのある艶やかな黒髪の女性の肩口に手をかけて、最寄りの駅までの行き方を尋ねようとした。

「すみません」
私の本来の目的は、最寄りの駅までの行き方を尋ねる訳ではなく、彼女を懐かしく感じるためであった。

彼女は、こちらに振り向いた。
「はい。どうかされましたか?」
きょとんとした顔で、私にきいた。

私は、彼女の顔を見て、少しも懐かしさを感じなかった。
素朴な表情には、これといった特徴は全くなかった。

私は、彼女に久しぶりだね。会いたかったよ。また、よりを戻そうよ。という返事が欲しかったのかもしれない。

私は、いつものように作り笑いをし、彼女に最寄りの駅までの行き方をきいた。
彼女は、親切に道の右折左折を繰り返すよりも、まっすぐ進んだほうが駅に早く到着出来ると教えてくれた。

私は、彼女に礼を言い、その場を立ち去った。
その他
公開:19/03/27 00:19

神代博志( グスク )









 

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