春の雪

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とある温泉旅館に男が来ていた。ひとり旅だ。女将さんとその主人だけの小さな旅館だった。

男は、さっそく温泉をご馳走になることにした。そこは小さな露天風呂だった。季節は春。まだ肌寒い。効能は分からないが白濁した湯が旅の疲れを包んで溶けていくようだった。

ハァ…と吐息をついたその時、ちらほらと雪が降ってきた。

「お湯加減いかがでごさいますか」

女将さんではない。着物に襷を巻いた老婦人が入ってきた。男が聞くと、女将さんの母親らしい。
「嫌なホゴリにございますねぇ」
「ホゴリ?」
「この村は春の雪をホゴリと申します。なごり雪が埃っぽいのでごさいます」
この村にとって雪は厄介で埃に例えられているそうだ。


「女将さん。お母さん素敵な方ですね」
「あ…ありがとうございます」

男が帰ると女将さんは母親に叱咤した。
「お母さん出てこないで!お願いだから!」

女将さんは仏壇の遺影に手を合わせた。
その他
公開:19/03/28 12:41
スクー 埃っぽくなる温泉

豊丸晃生( 大阪 )

ショートショートの神様、星 新一を崇拝しています。
お笑い系のショートショートを中心に書いていきたいと思いますので、よろしくです(^^)。

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