鵞鳥夫人推理張（十四）～巻末。

「要するに、私を除け者に、皆さん盛り上がったと」
砂糖壺を掻き回す匙に、私はしおらしく手を合わせた。
「だって私、知らなかったもの」
和十村医師の結婚式に招待されなかった件を、写六先生は根に持っている。愚痴を零す相手が違うと思うけれど。
「おまけに能登（のりと）が貴方の夫？私も初耳です。奴はうちでは死人扱いでね」
「法務省の内定を蹴って、物書きの卵と結婚したから？」
写六先生の――義弟の方難（まさか）さんの、拗ねた眼が翳る。
「守谷教授の助勢がなければ、大学も除籍だったはず。彼が安寅（あどら）姓を継ぐ時、過去に触れないと約束したの。黙っていて御免なさい」
「……兄は、この先？」
「彼は大いなる謎だから。どんな名探偵もお手上げ」
方難さんの前に、私は本を一冊置いた。
「鵞鳥先生の新作ですか。『僧門の七曜～迷惑探偵、写落斎無法頭（しゃらくさいむほうず）の沈推理』……」
「如何？私の最高傑作よ」