鵞鳥夫人推理張(九)

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「うむ。今回も名作であった」
感嘆の主人が、手巾で目元を拭う。私は勝ち役の札を捨て、諸手を上げた。
「守谷教授。趣味も程々に。上がりを端から本に変え、溜まった家賃と月賦、どう遣り繰りせよと仰るか」
「六遍雷鉦、麦秋の静寂(しじま)に唄う。欠けたる二十四の刻みに、王者は献杯せり。朝焼け黒に噤みて、暦の陰と陽と……」
駄目だ、入り込んでいる。イカサマで稼いだ日銭がまた消えるが、愚痴を零しても詮ない事。

「この詩に秘められた数の芸術が解るかね、茂藍(もらん)大佐」
三十年昔の肩書き、と説明するのも面倒だ。退役後、賭場の用心棒を経て詐欺師に堕ちた老骨を、拾ってもらった恩は十分返したが、見捨てるわけにも行くまい。
「ご贔屓の女作家ですか?」
「鵞鳥鷲子(がちょうしゅうこ)先生と言いなさい、無礼な!」
ふざけた筆名。『六文銭の刻印』――題名も不吉だ。これが冥途の土産という落ちだけは、勘弁してほしい。
ミステリー・推理
公開:19/03/26 02:00
更新:19/03/25 23:51
マザーグース『6ペンスの唄』 守谷教授=モリアーティー教授 茂藍大佐=セバスチャン・モラン

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

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