うたた寝列車

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ガタンゴトン。リズムよく揺れる列車の窓からは、暖かな陽光が差し込んでいた。あまりの気持ちよさにうたた寝をしていたところ、ふんわりと甘酸っぱい蜜柑の香りがした。それは真向かいに座る初老の紳士が食べている、不思議と濡れた蜜柑だった。
「お1つどうぞ」
受け取ると、不思議とひんやり冷たい、凍った蜜柑だ。
「不思議だ」
「そうですか?」
紳士は気にせず食べている。自分も倣ってそうすると、果肉がシャーベット状に砕け、蜜柑本来の果汁に戻り、乾きがちだった喉を潤してくれた。
「どこで買えますか?」
「どこって、そこら中に成っているよ」
車窓を覗くと、氷の結晶に閉じ込められた蜜柑の実が枝にたわわと成っている。それらが南国の光と風とで揺れていた。
「あんた、寝ぼけているね。降りたらまっすぐ松山を訪ねなさい」
紳士が車窓から颯爽と飛び降りたところで、今度こそ夢から覚めた。うたた寝列車の旅は、まだまだ途中だ。
ファンタジー
公開:19/03/25 22:05
愛媛への憧れ炸裂 冷凍みかんは給食の好物でした

風月堂( 札幌 )

400文字の面白さに惹かれて始めました!
文字や詩のようなものを書くのが趣味です。
情緒不安定気味でアゲサゲ落差のひどい人間ですw
いろんな方々の作品を読んで、心を豊かにしていきたいです。

無料の電子書籍をつくりました。
『ショートショート作品集カプセルホテル【】SPACE』
a.co/1VIyjHz

『枇杷の独り言』
ショートショートコンテスト『家族』最優秀賞頂きました。

写真は全て自前でやっています(笑)

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