鵞鳥夫人推理張（八）

「お～い鳥羽君」
庁舎の廊下を離脱中だった私は、その声を聞くなり足を速めた。
「待ちたまえ鳥羽君、そう急いで、転んだら危……のわっ！」
この無神経と、底抜けな善人臭。敏腕要素皆無のくせに、迷惑探偵の写六や医者の某とつるみ、数々の事件を解決に導く『本庁の星』
「大丈夫ですか須藤警部」
須藤怜人。私、鳥羽亜久里の手柄を横取りする、不倶戴天の敵。
「面目無い。返って世話を掛けた」
「私ごとき若輩で、警部のお役に立てるのでしたら喜んで」
「止しなさい。君も私も階級は同じ。共に世の治安を守る仲間だろう」
こんな愚鈍と、幹部候補の私が同列扱い。末代までの恥だ。
「資料を落とされましたが……コンコン爺さん犬に骨？」
「界隈の愛犬家宅で、深夜に咳が響くそうだ。もう十日連続で、その咳の波長が、モールス信号らしい」
「是非、捜査に御一緒させて下さい、警部」
好機だ。何としても須藤の秘密を探り、出し抜いてやる！