鵞鳥夫人推理張（五）

「先生！」
『はい？』
私が声を掛けると、先生達は同時に振り返った。
一人は山高帽にフロックコート。一人は久留米絣に突っ掛け。紅一点は、丹後縮緬に切り下げ髪。並んで歩くのが嘘の様な三人組。
「波止寸（はとき）君。事務所はどうした？」
久留米絣は私の雇い主。迷惑、もとい名探偵、写六方難（しゃろくまさか）。第六感と勢いのみの人で、正直ろくな働きをしない。
「真麻さんが前掛け姿で走って来た。急な来客かな？」
真っ当な推論は、友人兼目付役、和十村慈四（わとむらいつし）医師。写六先生の暴走を食い止め、事件解決に導く功労者。口は悪いが面倒見が良い。
「須藤警部なら毎度だし、難題の予感」
作家の鵞鳥鷲子（がちょうしゅうこ）こと、安寅愛梨（あどらあいり）夫人。今は『左党女と香辛料』なる諜報物を執筆中。
「米貨通りで、愚連隊が押し込みを」
「すぐ帰る！」
片目を瞑る先生に、目付二人。飼い主夫婦と子犬の図だ。