鵞鳥夫人推理張(十)
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「ねぇ伯父様」
五月蝿い。折角余韻に浸っているものを。
「伯父様ったら!」
耳元で叫ばれ、私の夢が藻屑と消えた。本を戻し、眼鏡を直す。
「失礼だが、どちら様かね?」
「呆けるには早いわよ、守谷の伯父様。姪の鳴有です」
百舌鳴有(もずめあり)。看護婦の姪か。近頃人の顔と名前が一致せぬ。殊に女子は、化粧で随分印象が違う。
「此処は女子供の来る所ではない。……茂藍(もらん)の怠慢め」
「大佐ならお昼寝中。それより私、伯父様にお願いが」
「羊さん」
「何それ。謎々?」
子供の渾名。『執事』と言えず『ひつじ』となった。茂藍も私も、微笑ましくてそのままにした。流石に忘れたか――
「改めて訊くが、どちら様かね」
「急にどうしたの、伯父様?」
「姪の鳴有は、茂藍の前歴を知らんよ」
ふっと笑った女は、薄い封書を机に伏せた。
「お越しをお待ちしておりますわ、守谷貞一教授」
靴の踵が、床を癇性に叩いて行った。
五月蝿い。折角余韻に浸っているものを。
「伯父様ったら!」
耳元で叫ばれ、私の夢が藻屑と消えた。本を戻し、眼鏡を直す。
「失礼だが、どちら様かね?」
「呆けるには早いわよ、守谷の伯父様。姪の鳴有です」
百舌鳴有(もずめあり)。看護婦の姪か。近頃人の顔と名前が一致せぬ。殊に女子は、化粧で随分印象が違う。
「此処は女子供の来る所ではない。……茂藍(もらん)の怠慢め」
「大佐ならお昼寝中。それより私、伯父様にお願いが」
「羊さん」
「何それ。謎々?」
子供の渾名。『執事』と言えず『ひつじ』となった。茂藍も私も、微笑ましくてそのままにした。流石に忘れたか――
「改めて訊くが、どちら様かね」
「急にどうしたの、伯父様?」
「姪の鳴有は、茂藍の前歴を知らんよ」
ふっと笑った女は、薄い封書を机に伏せた。
「お越しをお待ちしておりますわ、守谷貞一教授」
靴の踵が、床を癇性に叩いて行った。
ミステリー・推理
公開:19/03/26 19:00
更新:19/03/27 23:19
更新:19/03/27 23:19
マザーグース『メリーさんの羊』
百舌鳴有=メアリー・モースタン
※モリアーティーとメアリーは、
原作では親戚ではありません。
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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