花神の庭．外伝～四葉泡沫（よもはのうたかた）下

――いさなき。
骨は発せぬ声で叫んだ。これが遥か昔、己を拒んだ夫と、地上へ呪いをぶつけ捨てられた、すぐ後である事は判った。
彼の影をよすがに独り過ごした。呪いの果て地上が滅べば、夫は己の許へ帰るやも知れぬとも思った。耐え忍び待ち続ければ、いつか。
叶わなかったのだ。
夫は――伊弉諾（いさなき）はとうに砕け散り、魂の片鱗すら留めておらぬ。

『妻と呼べずとも構わぬ。いつか伊邪那美（いさなみ）が、地上に新たな生を歩むなら、世の総てを通して抱き締めよう。巡る季節に乗せ、永久の愛を囁こう』
『大母神は、その時御身を、憶えておられぬやも……』
『衆生一切に吾（あ）は在る。伊邪那美の中にも在る。生と死は繋ぎの輪。幾度も出会い別れ、世を紡ぐ。それが正しき命の理』

ひとふたみよいつむななやここのたり　ふるべ　ゆらゆらとふるべ
四玉と四魂が八条の花を結ぶ。四方つ坂は緑の平。

溢れる光を浴び、命が哭いた。