金継ぎママ

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女房が金継ぎに凝りだした。
割れた茶碗を漆で接着して隙間を金で装飾するわけだが、最近は陶器以外にもやりだした。
古い炊飯器に掃除機、近所の子が割った窓ガラスのヒビまで修復した。
「綺麗に直るもんだねぇ」
「でしょ!」
女房の目が爛々と輝き始めた。
「おい、どこでも金継ぎしようなんて」
⋯⋯考えるなよ、と釘を刺す前にもう居ない。

女房を追って外に出ると、すでに町は金継ぎだらけになっていた。
隣家の壊れた土塀、煙草屋の看板、自動車のウインカーと、ヒビのあったものが金継ぎで修復されていた。
「K子、いい加減にしろ!」
前をゆく女房に怒鳴ったが、あかんべをして逃げていく。
その直後、キキーーッ、ドンッ! と大きな音がした。
駆け寄ると女房は車にはねられ、腰の辺りから半分に割れていた。
だが手に異常はなかったので、さっそく自分の割れたパーツを集め、器用に漆を塗り始めた。
「ああ、金継ぎ楽しい!」
ファンタジー
公開:19/03/23 19:45
更新:19/04/03 12:07

渋谷獏( 東京 )

(੭∴ω∴)੭ 渋谷獏(しぶたに・ばく)と申します。 小説・漫画・写真・画集などを制作し、Amazonで電子書籍として販売しています。ショートショートマガジン『ベリショーズ』の編集とデザイン担当。
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