教室

僕は全部知ってる。
『君』が無くした鉛筆は、
『君』が勝手に捨てたのを。
それを『君』がそっと拾って、
こっそり『君』の机に置いたのを。

僕は全部知ってる。
『君』がここでお話しするのは、
一人ぼっちで座る『君』を
一人にしないためってこと。
ほんとは仲間に入れたいってこと。

僕は全部知ってる。
窓ばかり見る『君』と
『君』を見る『君』とが触れ合って
ほんのちょっとの熱量に
お互い全部がわかったことも。

僕は全部知ってる。
『君』がここからいなくなる日を。
『君』がこっそり渡した手紙を。
『君』が一声かけた時を。
『君たち』が見つめ合った放課後を。

僕だけは知っている。
床に潰れて乾いたみかんを、
綺麗に拭って黙って捨てた
『君たち』の誠実さを。

どこの大人がなんと言おうと
『君たち』は変わらない。
僕だけが知っている、君たちの。
伸びきらない自由な翼を
羽ばたかせて飛んでいけ。